0356
2006-04-18
その場探偵
「ああ、まただ」
 小さい事務所の中、年配の男性が声を上げた。
「だめだ。スイッチ入れても動かないよ」
 机の上においた、パソコン本体の電源をかちゃかちゃと押す。
「さわらないで!」
 それを見ていた若い女性が叫んだ。

「現場は保全してください。これは、事件です。
このフロアのパソコンは外部LANにはつながっていません。
メディアの持ち込みも基本的に禁止ですし。
つまり、これは内部の犯行……。犯人は、この中にいます!」
 どーん。口で効果音を出しながら指差すパソコン。
「そういや、キミは探偵モノが好きなんだっけな」
「このマシン、死ぬ前になにかおかしな動作は?」
 真剣な顔で聞く女性に、男性は思い返し、
「うーん、そういえば、ぼちぼちと
いきなり電源が切れたりはしてたかな」
「まさか……!」
 女性はパソコンの前に行くとスイッチに触れた。

 ピポ。
 軽い音がしてパソコンが動き始める。
「お、動いた」
 喜ぶ声を上げる男性を尻目に、女性は後ろに手をかざし、
青い画面のモニターをにらみ、そして、電源を落とした。
「ふっふっふ、わかりましたよ、犯人が!」
 その場かぎりの探偵もどきは一同を前にサテと言い、
「このパソコンを殺した犯人は……」
「動いたじゃないか、さっき」
 がっくりと肩を落とす。
「違うんですよ〜。このままじゃまたいきなり
電源がおちるはずです」
「そうか、すまんすまん。で、犯人は?」
 女性はこほんと咳払い。
「犯人は、CPUファンです!」
「な、なんだってー!」
 CPUファンってなに、と言いかける声を覆うように、
「CPUファンさん……あなた、自分の仕事をさぼったでしょう。
稼動時は常に冷やしておかなければいけない
CPUへ風を送るのをやめるようになった。
その結果、CPUは自身の熱を散らしきれずに危険温度まで達し、
安全装置により勝手に電源が切れた……とこういうわけですよ。
事実はいつだって一つ!」
「おおー!」
 ぱちぱちと拍手が起こる。

「で、なおせるの?」
 訊かれた女性はきょとんとし、
「え? 無理無理。探偵は犯人を見つけるまでが仕事です」