0403
2006-04-28
『好き』のS-O-R
「あそぼー!」
 実習先に行くと、いつものように
小学生の小さな女の子が駆け寄ってくる。
「はいはーい、じゃあ、どうするの?」
「うーん、どうしよっか」
 そして縄跳び、かけっこ、鬼ごっこ。
夏休みのこの暑さの中、よくもこんなに動き回れるものだと思う。

「ち、ちょっと休憩ね」
 すこしは涼しい建物の中に入り、ぺたっと座って一休み。
 わたしなんて帰ったらくたくたで、
なんとかシャワーを浴びて寝るだけなのに、
こどもたちはこれだけ遊んで夜中まで起きてるらしい。
この底抜けの元気は、きっと宇宙のどこかにつながっていて、
そこからなにかの力を吸収しているからだ、なんて思えてしまう。
「ねー、まだー?」
 汗だくのわたしにべたっとくっついてくる女の子。
「待って、待って。すこし中で遊ぼう?」
「うん。じゃあ行こ!」
「はーぁい」
 だるい体を起こして、引っ張られるまま遊び部屋に行った。

「なにする、なにするの?」
 わたしの周りをくるくると走る小さな体。
しばらく他の人と遊んでて〜、
なんて言っても納得してくれなそう。
なのでどうにか体を動かさなくていい遊びを考えていると、
床に落ちている輪ゴムを見つけた。
 小指にひっかけ、親指を回し、伸ばした人差し指の爪に。
これで小指を離すと――ぱちん。狙う先の壁にあたった。
「わ、どうやるの?」
 きらきらと目を輝かせて覗き込む顔。
 飛んだ輪ゴムを拾って指に。
「こうやって、親指をまわして、こう」
 小さな手に手を添えて輪ゴムをかけると、
壁に向かって発射した。
 驚きのような、自信のようなものをあふれさせてわたしを見、
「うん!」
 わたしがうなづくと、顔中で笑った。

 それからもう一本落ちていた輪ゴムを拾って、
ふたりで的を狙って順番に撃ちっこ。
「はい、またわたしの勝ち〜」
「むー。どうやったらあたるの?」
「え?」
 そういえば、てっきり知ってるつもりになって、
狙い方なんて言ってなかったっけ。
「なるべく指をまっすぐにして、飛ばすほうを見て……」
 ひゅっ。
 かがんで頭を寄せながら狙いをあわせると、
かなり近いところへ飛んで行った。
「うわ、おしい」
 頭の横で女の子の声。
 そして、ちゅっと頬に何かがあたる感触。
「え?」
 見るとぱたぱたと輪ゴムを取りに行き、
振り返ると照れたようなはにかみを浮かべた。

 ――わあ……。
 その瞬間、すべてがわかった。
いつもわたしのそばにいたのは、わたしが好きだったからなんだ。
 ああ、なんだろう。すごく、嬉しい。
 わたしが何かをして、その子が反応する。
いつもと同じことなのに、
わたしを好きでいてくれると思うと、それがすごく嬉しい。
 好きでいて、好きでいられるって、
自分が渡す以上のお返しを貰っていたんだ。
「……大好き」
 心のままに抱きしめると、
女の子は嬉しそうにくすぐったそうに目を細めた。