0402
2006-04-28
愛の水やり
「おいしい?」
「うん」
「そう」
 紅茶の香りのゆげのむこう、おとなりのおねえちゃんが
柔らかな笑顔を浮かべ、わたしの頭を撫でた。
 しっとり、しっとり。頭から溶けていってしまいそうになって
寄りかかると、おねえちゃんはいい匂いのする腕の中に
わたしを抱き寄せてくれる。

「ふふっ」
 幸せな声の震えがわたしの肌を伝わった。
 あまりに夢のようで、自分が信じられなくなっていく。
「おねえちゃんは……どうしてこんなことしてくれるの?」
 ふと不安になって訊ねると、すこし強く抱きしめて。
「わからないかなあ」
 ちょっといたずらっぽい声で言った。
「好きだから、だよ」
「うそ!」
 顔をあげると、
「どうして?」
 ほほえんだままわたしの顔を撫でた。

「だってわたしチビだし……
おねえちゃんみたいにきれいじゃないし」
「あははっ」
 おねえちゃんは本当におかしそうに笑ってわたしを抱きしめる。
「ちっちゃい背だってかわいいし、
顔だってこんなにかわいいのに」
「うそ……」
「ほんと」
 甘い匂いをこぼしながら、わたしのおでこにキスをした。
「小さい背も好き。すこしくせっ毛のこの髪も好き。
きれいな指も好き。それに、そうやって
すぐ考え込んじゃうところも好き」
 優しいその手ですくい上げては唇で触れていく。
「でも、わたし、自分のこと好きじゃないのに」
「ふふふ」
 それでも笑顔でぐしゃぐしゃと髪を乱して、
「ずっとそばにいる人の変化って全然気づかないでしょ? 
いつも見てるから嫌なところもよく見えちゃう。
自分の一番そばにいるのは自分だもんね。でも……」
 こんな言い方はずるいかも知れないけど、
とおねえちゃんはつぶやいて、
「わたしのこと、好き?」

 こくこくと何度もうなづくわたしに、
ありがと、とはにかむと、目を合わせて体の中に響く声で言った。
「あなたはね、あなたの好きな、わたしが好きなあなたなんだよ」
 驚きに、わたしの背中に張り付いていたものが
はがれていくような気分。
 なぜだか急にむずがゆいような
恥ずかしいような気持ちに顔が赤くなっていく。
「あーん、かわいい! 大好き」
 なんだかもう頭が真っ白になりかけていたけど。
わたしってそんなに捨てたものでもないのかなあと、
ちょっと、思った。