0420
2006-05-10
輝き損ね
「なあ、ゴミやドロにまみれたり、
その中でもまれたりすると逆にきれいになるものは知ってるか?」
 親と一緒に田舎に戻ったとき、祖父から訊かれた。
「さあ。なに?」
 わからずに聞き返すと、
「魂だ」
 祖父は言う。
「だからこそ若いうちの苦労は買ってでもするもんなんだ」
「そうかな」
 ぼくは思いを口にした。
「黙ってたってくだらない苦労なんていくらでも入ってくるし、
そうやって人を汚す人間だけが、
自分はきれいなまま楽して上に行く時代だよ? 
そんなんじゃ魂だって苦労するだけ汚れていくと思うし、
きれいな女だって苦労するだけすれていく。
できるならお金を払っても余計な苦労は買いたくないけどな」
 すると祖父は、
「まあ、そうだな」
 そう言って寂しげな目で笑った。