0421
2006-05-10
ゆるやかな崩壊
 畑は生ものだ。朝早くから夜遅くまで目をかけ、手をかけ。
どのくらい耕していつ植えていつ収穫するか、
その年、その時期ごとに見極めが必要になる。
しかもなにより肉体労働。
年をとるごとに仕事はきつくなっていく。

 だから去年、父さんは町に出稼ぎに行き、
月賦で農耕機械を買ってきた。
これで作業も楽になる……と思ったら。
支払いの金を稼ぐために、父さんはずっと出稼ぎに行ったまま。
トラクターはあっても、作業をするのは
おれや母さんやじいさんたちだ。
 父さんがいて、トラクターがなかったとき。
トラクターがあって父さんがいない今。
 いったいどっちが幸せだったんだろう。
「父さん、もしかしたら」
 土ぼこりで薄汚れた悲しい機械を撫でながら。
「うちが幸せになれる道なんて、元から……」
 それを言ってはすべてが壊れてしまう気がして、
出しかけた言葉を飲み込んだ。