鯉たちが急流を登っていた。
この流れを昇れば龍になれる、そう信じて。
だが水は激しく、鯉たちをはるか下流に押し流そうとする。
一匹、また一匹と姿を消していく中、
必死に食い下がる一匹が訊ねた。
「なあ、もしこの川を昇りきれば、龍になれるんだろ?」
「そうだ」
答える余裕もないように、気を吐きながら別の一匹が答えると、
「……龍になって、どうするんだ?」
また訊ねた。
「なに言ってるんだよ。龍になるためにここまで来たんだろ?」
「いや、まあ、そうなんだけどさ。
親に言われてここまで来ただけだし……。
おまえはどんな龍になりたいんだ?」
「どんなってなんだよ。
まずはならなきゃはじまらないじゃないか」
「いやぁ、でも、なんかこのまま龍になるって
もったいなくないか? 龍になっちゃったら、
今の感じは全部なくなっちゃうんだろ。
それって……なんか怖いな」
「なに言ってんだよ、しっかりしろよ」
「ほら、でもさ……文化祭は準備をしてるときが一番楽しくて、
終わったらすごくさびしくなるって言うかさ」
「どこの鯉だ、おまえ」
しばらく泳ぎながら悩むと、その鯉は言った。
「やっぱりおれ、どんな龍になるのか、
もっと考えてみてからにするよ」