ようやくの休日。久しぶりに顔を見る彼女は、
待ち合わせのベンチにどこか乱暴に腰を下ろした。
「どうしたの? なんか疲れてるね」
声をかけるとぼくの隣で、
「も〜、さんざんだよ」
大きくため息をついた。
「他の人は普段からわたしがろくな仕事してないっていうの。
なにかあったってやめればいいだけ。
全部責任をとらなきゃいけない男とは仕事の質が違うとか、
仕事に向けての態度が違うとか、いっちいちばかにしてさ。
そうやっても結局は余した仕事とか、
まとめの処理とかはわたしが全部やらなきゃいけないのに。
自分たちだけが大変だ大変だって、偉いふりして。
わたしがどんなにがんばってるかだって、
どんな仕事をしてるのかだって、だれも何にもわかってくれない」
口をとがらせて肩を落とす彼女にぼくは言う。
「わかりたくないんだろうな。
誰かをばかにしていれば自分だけは守れるし。……でも」
振り向いたその瞳に。
「ぼくは、ぼくだけは、そんな君を知ってる」
精一杯の笑顔に込めて言うと、
彼女の目からぼろっと涙が落ちた。
普段人前で泣くことなんてない、彼女の涙。
うつむく頬に手を添えて目の端をぬぐうと、
笑いのような小さなためいき。
「うん?」
訊くと、そっと笑顔の目を上げて、
「カニのにおいがする」
ぼくの手にその手を重ねた。