目が覚めると、見知らぬ天井があった。
「よかったぁ〜!」
真上に姉貴の顔があらわれ、おれの顔に涙をぼたぼたとこぼす。
「なん……ぐっ」
体を動かそうとしたとたん、激痛。思わず言葉を失った。
「あ、動かさないほうがいいよ
。いろいろぼろぼろなんだから、体」
「おれ、どうなってんの?」
どうやら病院のベッドの上にいるらしいのはわかるが……
「覚えてないの? 車にはねられたっていうじゃない。
ずっと意識が戻らなくて心配してたんだよ」
「あ、あーあーあー!」
手を打とうとして、新たな痛みにもだえてみる。
「思い出した?」
「いや、それは全然知らないけど、おれ、たぶん死んでたよ」
「え?」
思い出すあの時間。
「知ってる? あの世ってすごく幸せなんだ。
欠けてるものなんてなにもないみたいに、ただ幸せがあって。
理屈じゃなくてわかるんだ。
知りたいと願うものは全部知ることができるし、
行きたいところにはどこでも行ける。
なんの心配も、苦労も無いんだよ。その気になれば神の姿も、
宇宙の最初の姿だって見られただろうね」
「それで、なにを見たの?」
神妙な顔をする姉貴に。
「それがさ……」
おれは答える。
「なんでもあるし、なんでもわかるとなると、
別になにする気もなくなっちゃったんだよね。
観光地の人が地元の名所を見に行かないのと同じようなもん?」
姉貴はなんともいえない顔をして。
いろいろ足りない世の中だけど。何かをしたく思えるだけ、
ここもそんなに悪くは無いなとおれは思った。