0462
2006-05-24
スリル
 はじめはひとめを忍ぶようにやっていた。
だれもいない場所、だれにも見られない行為。
 ただそのことだけ、行為だけで楽しかった。

 それがどれくらいたった頃か、行為は加速した。
自分だけのひめやかなものじゃない。
ばれればつかまるようなことだ。
 最初はそれでもたまらなく興奮した。
 だが、繰り返すうちにマンネリ感と物足りなさを
感じるようになった。本当に誰かに見られたいわけじゃない。
でも、誰かに見られる、つかまるようなギリギリが
ようやくおれを満たしてくれたんだ。
 あるときは後部座席に『それ』を置いたまま
車を走らせたこともある。だれかに気づかれれば身の破滅。
だが、それがたまらなかった。

 そのうち、家に『それ』を置いてでかけるようにもなった。
ずいぶん慣れてしまっていたし、そこまでしなければ
もう緊張も興奮も味わえなくなっていたんだ。
 だが、それだけに何にも変えがたい興奮があった。
 きっとわからないだろう。ばれてしまったときに
今まで気づいた社会的なものをすべて失う甘い破滅の予感。
それがあるからこそ、こんなおかしな行為が
なによりも輝くんだよ。

 結局はつかまったわけだが……。きっと、
足を洗うことなんてできない。
 いくらやめようと思っても、おれはまた、やっちまうはずだ。

「う〜んん……」
 ちらばった二人分のメモをかき集めて、
わたしはため息をついた。
 ようやく取材できた連続殺人・切断死体遺棄事件の犯人と、
近所で名高い露出狂の人。
 『それ』が服なのか遺体なのか。
何度読んでも文脈からは判断できずに、
なんだかもう、泣きたくなった。