0474
2006-05-29
社会派彫刻家
「どうだ、見てくれよ。現代社会が抱える闇を
浮き彫りにしてみたぜ」
 奴が言い、おれはそれを見て訊ねる。
「おまえさ、彫刻で語ろうとする割には、
浮き彫りしかできないのか?」
 ぎくりと体を揺らすと、
「いや、ほりさげたりもしてる」
 目をそらして言った。
「それは掘下げであって、下げ彫りじゃないよな。
一つ技を極めてるつもりなのは自分だけで、
ほんとは何にもほれてない気はしないか?」
「そんなわけあるか!」
 怒ったように叫ぶ。もはやひらきなおりの境地だろうか。
「問題の点と点を結んだら線になった。
その線を刀で辿った……ということは」
「なんだよ」
「できあがるのは浮き彫りじゃなくて、
筋彫りもしくは線彫りだよな」