「もう妊娠25週くらいです。堕胎することはできません」
医者は女性に言った。
「どうして!」
女性は叫ぶ。
「政府なんて一度できた技術を封印しようとするじゃない。
それにくらべたらこどもをなかったことにするなんて
簡単でしょ?」
その言葉に医者は首を振り、
「だから技術は見た目だけ見えない場所にもぐり、
人クローンにしても陰で行われているのですよ。
できたものは消せない、その上でどう統制するのかが
本当は大事なんです」
「きれいごとはいいから、おろしてよ。
あたしこどもなんていらないよ」
「そこでおろしたとして。こどもの存在が無になっても、
『殺した』という歴史が残ります。
それすらもなくしたいと言うのなら、
あなたも陰に入るだけです。ただ――」
医者はかつて見た悲惨な女性たちを思い出しながら、言った。
「莫大なお金をかけながら、
二度とこどもの埋めない体になるかもしれないし、
手術で自分の命も失うかもしれません。
大きな傷が残るかもしれないし、
その場所から無事に帰って来られないかもしれませんが」
「もっとなんとかならないの?」
その言葉に首を振り、
「それが目に触れさせたくないものを地下に押し込めた結果です。
危ないものほど日のあたる場所、
風通しのいい場所に置かなくてはいけなかったのに」
医者は大きくため息をついた。