『心のゆとり大事に』
『みんな困ります地下鉄で投身事故』
会社に向かう途中、駅の壁にそんな張り紙を見つけた。
今まで気にもしなかったものが微妙な存在感を放ちながら
頭の隅を刺激する。
……ふう、とため息。
自分で死のうとする人は、
生きていてもどうしようもないとかそんな気分だと思う。
もう自分なんていらないし、いっそいなくなってしまいたい。
だから死にたくなるのに、それを止める張り紙が、
『おまえが死ぬのも迷惑だ』と言っているなんて。
生きるのも迷惑、死ぬのも迷惑。
そこまで叩きのめさなくても……。
せめてうそでも詭弁でもいいから、
『あなたを待ってる人がいます』くらいのこと、
書けないのだろうか。
それに、なんなんだろう、
『みんなが困ります地下鉄の投身事故』って。
書き方からすると、飛び込む人に向かって言ってるのはわかる。
でも、事故って普通、勝手に起こってしまうもの、
受動的なものであるはず。飛び込む人にとっては恣意的だから、
それは事故じゃない。
つまり……はっきり書けば、
『みんな困ります地下鉄で投身自殺』。
そうなるべきところを、適当に濁して書いたせいで、
わけのわからない看板になったわけか。
気がつけば次の駅。
そこにもまた同じ張り紙がしてあって。
見ていたら、なんだか無性に死にたくなった。