0484
2006-05-31
うんざり気分
『心のゆとり大事に』
『みんな困ります地下鉄で投身事故』

 会社に向かう途中、駅の壁にそんな張り紙を見つけた。
 今まで気にもしなかったものが微妙な存在感を放ちながら
頭の隅を刺激する。

 ……ふう、とため息。
 自分で死のうとする人は、
生きていてもどうしようもないとかそんな気分だと思う。
もう自分なんていらないし、いっそいなくなってしまいたい。
だから死にたくなるのに、それを止める張り紙が、
『おまえが死ぬのも迷惑だ』と言っているなんて。
生きるのも迷惑、死ぬのも迷惑。
そこまで叩きのめさなくても……。

 せめてうそでも詭弁でもいいから、
『あなたを待ってる人がいます』くらいのこと、
書けないのだろうか。
 それに、なんなんだろう、
『みんなが困ります地下鉄の投身事故』って。
書き方からすると、飛び込む人に向かって言ってるのはわかる。
 でも、事故って普通、勝手に起こってしまうもの、
受動的なものであるはず。飛び込む人にとっては恣意的だから、
それは事故じゃない。
 つまり……はっきり書けば、
『みんな困ります地下鉄で投身自殺』。
 そうなるべきところを、適当に濁して書いたせいで、
わけのわからない看板になったわけか。

 気がつけば次の駅。
 そこにもまた同じ張り紙がしてあって。
 見ていたら、なんだか無性に死にたくなった。