0502
2006-06-05
闘士
 学校の教育実習で幼稚園へ。何日かして慣れてきたころ、
他の実習生の子に男の子が言うのが聞こえた。
「せんせー、大きくなったらボクのおよめさんにしてあげる!」
 ふふふ、かわいいなあ。
「『してあげる』?」
 でも、その子は。今までのにこやかな笑顔を一変、
相手を射殺すくらいの視線を射かけて低い声で口にした。
「それを言うなら『なってください』でしょ? 
甲斐性なしの被扶養家族の未成年のくせに一人前に色気づいて。
こどものくせに男だとそんなに偉いわけ?」
「ちょっ、ちょっと……! まだこどもだよ。そんな言いかた」
 思わず止めに入ると、わたしにはいつもの顔で振り向いて、
「あ、そうですね。ごめんなさい」
 そして男の子の頭に手を置いた。
「ごめんね、ちょっと気に障っちゃった」
 撫でると思わせておいて、指先が白くなっていく。
「もしキミが将来まっとうな手段で大金持ちになって、
わたしの生活も老後も何の心配も無く
送らせてくれるようになったら……
そのときはお婿さんにして『あげる』のも考えたっていいよ」