0503
2006-06-05
過敏症
 とあるデパートで、一人の若い女性が不機嫌な顔で
甘いものを買おうとした。
 彼女がハンドバックから財布を出すと、
ふわりと下に落ちるハンカチ。
 しかし彼女は気づかずに品物を受け取ると歩き出し、
それに気づいた向かいの店員があわててハンカチを拾いに走り、
呼びかけた。
「お客様、落とされました」
 今日は不愉快な日だった。
 いいところまでいけると思ったオーディションだったのに
水着審査の後で落とされた。
 『今回は水着があるから』、『君はO脚だから合わない』、
そう言って選ばれたのは、なんの華も無いような女。
 あんまりいらついたので、
今日ばかりはと駅デパートで甘いものを買って
さっさと帰ろうとしたところ、後ろから誰かの声がした。
「O脚さま、落とされました」
 ……O脚で落とされた。O脚で落とされた。
 そんなのわかってる。呼びかけてるのはわたしにじゃない。
 聞くもんか、絶対聞くもんか。
 なのに、声はどんどん迫ってきて、
最後にはわたしの肩に触れる感触。
「O脚さま、落とされました」
「だれがO脚さまよ!」
 わたしは振り返って叫んだ。