0507
2006-06-06
枝葉末節
 パソコンに向かって仕事をしていると、
室長から声をかけられた。
「すまないけど」
 と、彼は言った。
「新入社員のために、これだけは覚えておかなきゃ
っていう資料が欲しいんだ。簡単なものでいいから頼むよ」
「いつまでですか?」
「そんなに急いでないから、手のすいたときにでも
やっといてくれないかな」
「わかりました」
 そして何日か経った週末、室長がそばに来て訊ねた。
「このまえ頼んでおいた資料、できてるかな」
「いいえ、まだ手もつけられていません」
 答えると驚いた顔をして、
「じゃあ、今まで何をしてたんだ?」
 軽く嫌味のこもった声で聞いた。
「平日のことですか? それならいつものように電話をとって、
その報告書などをまとめていました」
「そんなの、何分かでできるだろう?」
「そうですね。たった一本、十分電話を受けたら
その内容を文字に起こすのに四十分、
その電話の要点をまとめるのに十分、
自分の対応の反省点をまとめるのに十分、
報告書の形にまとめるのに二十分かかるのも、
きっと室長が電話をとるなら、
たったの何分で片付くのでしょうね。
わたしが普段何本電話とって、何分対応しているか、
まさかご存知ないわけありませんよね?」
 すると彼はきまずい顔をして、
「なら、今日はどうなんだ? ほとんど電話もなかっただろう」
「今日ですか? 土曜日の今日は室長に提出する分の、
今週一週間分の自分の入電本数、応答電話の種類、
電話応答の反省と改善案を四時間かかかってまとめたのち、
課長に提出する、わたしのグループ全体の入電本数、
応答電話の種類、電話応答の反省と改善案を
三時間かかって課長形式にまとめたあと、業務に提出するための、
電話の応答時間と保留時間、入電本数と応答本数、失敗本数、
応答電話の種類を業務課形式でまとめているところです。
このあとは経理に提出するからと室長がわたしに頼まれた、
入電本数と応答本数、入電種類それぞれに対する
応答時間をまとめ、応答時間や保留時間を考慮した
応答単価の推移や改善案をたぶん残業してまで
まとめなければならないと思っているところです。
お金も出ないのに」
 一息に言って、わたしはつないだ。
「わたしも一つ、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
 うしろめたそうな表情を浮かべる顔に。
「わたしの仕事は電話対応ですか? 
それとも、何に使うかわからないような形式だけの
どれも同じ報告書をひたすら書くことですか?」