室長が係長に呼ばれて戻ってくると、
行く前と違って見た目から不愉快そうな雰囲気を
だだもれにしていた。
「室長と係長って」
隣の同僚がまわりにだけ聞こえる声で言う。
「なっとうとメガネみたいだよね」
周りの子は笑ったけれど、おれはあいまいな笑み。
なっとうとメガネ? 何のことだ?
みんなわかっているような雰囲気に意味を訊ねることはできず、
家に帰って妻に訊いてみた。
はじめはきょとんとしたけれど、
状況を説明すると小さな笑いをこぼす。
「なんだよ、どういう意味?」
訊ねると、
「高いサングラスもってたでしょ? ごはんのときにかけてみて」
そして食事。言われたとおりサングラスをかけて席に着き、
用意された納豆でごはんを食べてみた。
じょわじょわとかき混ぜ、ぞびぞびとすする。
そのうちに糸が顔に……。
「うわ、気持ち悪い」
サングラスを外し、顔をくすぐる納豆の糸を
手探りでひっぱるおれに、
「めがねにもついてるよ」
表面に光をあててみると、細い筋。
さすがに手ではもう取れず、ティッシュで拭いてみた。
「うわ」
油のようなよごれがぬるりと広がり、おれは思わずつぶやいた。
「相性悪いな〜、これ」