0519
2006-06-08
なっとうとメガネ
 室長が係長に呼ばれて戻ってくると、
行く前と違って見た目から不愉快そうな雰囲気を
だだもれにしていた。
「室長と係長って」
 隣の同僚がまわりにだけ聞こえる声で言う。
「なっとうとメガネみたいだよね」
 周りの子は笑ったけれど、おれはあいまいな笑み。
 なっとうとメガネ? 何のことだ?

 みんなわかっているような雰囲気に意味を訊ねることはできず、
家に帰って妻に訊いてみた。
 はじめはきょとんとしたけれど、
状況を説明すると小さな笑いをこぼす。
「なんだよ、どういう意味?」
 訊ねると、
「高いサングラスもってたでしょ? ごはんのときにかけてみて」
 そして食事。言われたとおりサングラスをかけて席に着き、
用意された納豆でごはんを食べてみた。
 じょわじょわとかき混ぜ、ぞびぞびとすする。
 そのうちに糸が顔に……。
「うわ、気持ち悪い」
 サングラスを外し、顔をくすぐる納豆の糸を
手探りでひっぱるおれに、
「めがねにもついてるよ」
 表面に光をあててみると、細い筋。
さすがに手ではもう取れず、ティッシュで拭いてみた。
「うわ」
 油のようなよごれがぬるりと広がり、おれは思わずつぶやいた。
「相性悪いな〜、これ」