0544
2006-06-14
玄人好み
 放課後、校舎を見回っていると、
教室から女の子たちの声が聞こえてきた。
 早く帰るように促そうとしたけれど、
扉を開けようとしたときに耳に入った会話に手が止まる。
「わたしは〜〜君が結構好き」
 きゃー とか わー とか、そんな小さな歓声。
 そういえばわたしも小学生のとき、こんな会話をしたっけなあ。
「〜〜ちゃんは?」
「わたしは、彼、かな」
 ええ〜、と驚きの声があがる。
誰だかはわからないけれど、意外な子らしい。
「だってあいつ、バカだよ?」
 ふふふ、と小さな笑い。
「青いねえ。今の歳だと、悪ぶったりきざっぽかったりする
男の子がかっこよく見えるだろうけど、
そんなのは将来くすむだけ。
その点、彼はおちゃらけてるけど基本的にものを考えてる。
ああいう子は将来、化けるよ。どんないい男になるかと思うと、
ぞくぞくするねえ」
 その言葉に、どこかの妖艶が
あやしく目を細めている姿を思った。
 そして。この子がどんな大人になるのかと思うと、
いろんな意味で将来が心配になった。