0552
2006-06-15
持ってない
 修学旅行のバスの後ろのほう。
大半がもてない男子のバカ話がきこえてきた。
 はじめはまったく興味の無い話だったけれど、
彼女にするなら譲れないものという話題が出て
わたしはこっそり耳を傾ける。

「おれはムネがでかいのがいいな」
 まっさきに口を開いた男子。
ああ、いるいる。体だけ目当てみたいなの。
「おれはかわいい子がいい。きれいより、かわいいのがいいよな」
 あ〜、とか声をもらしながら
周りがうなづいているみたいだった。
「おれは絶対ちっこい子だな」
 なんだ、ロリコンか。……ちがう、背だ、背!
 そんなやりとりが聞こえてくる。
「おれは、趣味とか好みとかが同じのがいいな」
 ああ、それならわかる。
おなじものを一緒にやれたら楽しいもんね。
「おまえは?」
「ん〜。実感わかないし、よくわからないけど」
 あ、この声……。

 わたしは息を殺して続く言葉を待った。
「おれは、おれのことを好きなひとがいい」
「安い!」
 瞬間に周りからあがるつっこみの声。
「な、なんだよ。どんなにかわいくたって趣味が同じだって、
こっちのこと好きでもなかったらなんにもならないだろ」
 それはそうなんだけど。
 わたしは心でつぶやいた。
 みんなそれを前提にして、
その上で何が欲しいか言ってるんだよ、たぶん。
 ……そんなこと思いもしない彼が、
なんだかいっそういとしく思えた。