仕事を終えて家に帰ると、
妻から受験を控えた娘と話をしてくれと言われた。
「なんだ、どうしたんだ?」
居間のいすにむくれた顔で座る娘。
「もう数学も社会もやだよ。
あんなの将来なんの役にも立たないじゃない」
腐ったように吐き出した。
「そんなこと言ったらおれの仕事なんてどうだ。
あの会社でしかつかえない、くだらないさじ加減だけ。
無茶な注文でも断るとうるさそうならしかたなく引き受けて、
平気そうな客なら断る。弱い取引先なら多少強く出て、
強い相手にはぺこぺこ。
うちの会社なんてあと二・三年もすればつぶれる。
そしたらおれはどうすればいい?
他の会社じゃ、将来なにも役に立たないんだぞ。
それともなにか? いまから将来確実に役に立つ、
手に職をつけるための勉強がしたいってことなのか?
大工とか医者とか弁護士とかプログラマーとか」
すると娘は神妙な顔をして言った。
「……やっぱり今までどおり勉強する」