なにかの選挙が近づいてきたある日、
だれかが訪ねてきたので出てみると、
たぶんご近所の夫婦だろう二人組みが表に立っていた。
「どうかしました?」
訊いてみたら、
「投票のお願いに来ました」
聞きたくもない話を聞かされてみると、
どうやらどこぞの党の人間に入れてくれと言いに来たらしい。
くだらないのに関わってしまった……。
さっさと終わらせたくて一計を案じてみる。
「その人、それだけの価値があるんですか?」
おれは訊ねた。
「もちろんです」
「なら、あなたたちの覚悟を見せてください。
政治だのなんだのはわたしには関係ないんです。
食うことにすら事欠くこの財布に、
いくらか救いをくれればよろこんで投票しますよ」
「でも、それは……」
「できないんですか? 口で言うことはできるけど、
実際自分たちの身を切ることになったら、
とてもじゃないけど応援すらできない、
その程度の人だと思っていいんですよね?
仲間からもそんな扱いの人にはとても投票なんてできませんよ」
言うと二人で目を合わせとまどうようすを見せたが、
最後には男のほうがためらいながらも財布を取り出し、
札を二枚ほど抜いて差し出した。
それに一瞥をくれておれは言う。
「そういう行為、禁止されてるのも知らないんですか?
票をもらうためには法律さえ無視する、
そんな応援者がいるようじゃ、
その代表もたかが知れてますね。
わたしが投票するに値はしません。もう帰ってください」