0577
2006-06-21
ひっかけ問題
 なにかの選挙が近づいてきたある日、
だれかが訪ねてきたので出てみると、
たぶんご近所の夫婦だろう二人組みが表に立っていた。
「どうかしました?」
 訊いてみたら、
「投票のお願いに来ました」
 聞きたくもない話を聞かされてみると、
どうやらどこぞの党の人間に入れてくれと言いに来たらしい。
 くだらないのに関わってしまった……。
 さっさと終わらせたくて一計を案じてみる。
「その人、それだけの価値があるんですか?」
 おれは訊ねた。
「もちろんです」
「なら、あなたたちの覚悟を見せてください。
政治だのなんだのはわたしには関係ないんです。
食うことにすら事欠くこの財布に、
いくらか救いをくれればよろこんで投票しますよ」
「でも、それは……」
「できないんですか? 口で言うことはできるけど、
実際自分たちの身を切ることになったら、
とてもじゃないけど応援すらできない、
その程度の人だと思っていいんですよね? 
仲間からもそんな扱いの人にはとても投票なんてできませんよ」
 言うと二人で目を合わせとまどうようすを見せたが、
最後には男のほうがためらいながらも財布を取り出し、
札を二枚ほど抜いて差し出した。
 それに一瞥をくれておれは言う。
「そういう行為、禁止されてるのも知らないんですか? 
票をもらうためには法律さえ無視する、
そんな応援者がいるようじゃ、
その代表もたかが知れてますね。
わたしが投票するに値はしません。もう帰ってください」