0578
2006-06-21
秘めた願い
 休日に家でごろごろしていたら、
高校時代の同級生が来ていると言われた。しかも女の子。
 おいおい、卒業から三年も経って、どんな愛の告白だよ。
 期待に胸を膨らませて飛び出したおれが、
そこに立つ姿を目にした瞬間……胸が音を立てて
しぼんでいくのがわかった。
「何の用?」
 訊ねるおれに、
「選挙のお願い」
 そいつはかわいくもない顔でにやりと笑った。

「……で」
 それなりにまとめられた話を聞き、
「おれに今度の選挙でそいつに投票しろと」
「うん」
「そいつがどんな考えでどんなことをやろうとしているかも
説明せずに、知り合いだからと訪ねて来て入れろと言うのは
どういう了見なんだ?」
 訊ねると、したり顔の口が動く。
「いいから。あんたみたいなクソ頭じゃ
あの方の崇高な考えを語るのももったいないし、
言ったところでどうせ理解できないでしょ。
考えるだけ無駄ってもんだし、
わたしたちが推すあの方にまかせておけばすべて安心。
四の五の言わずにおとなしく
『はいわかりました、たとえ何があろうともおっしゃるとおりに
投票させていただきます』って深々と頭を下げりゃいいのよ」