「ああ、くそ」
男はにくにくしげに吐き捨ててペダルを踏み込んだ。
ヴヴォン。
かみ合わない音を流すだけで、慣性を失ってゆく車。
「しっかりしろよ」
なおも荒くアクセルを踏み込んでスピードを出させようとする。
進まなくとも悲鳴を上げようと、
気にせず男はペダルを蹴りつけた。
そして小さな破裂音を最後にエンジンは何も反応しなくなる。
「だめだ、こいつ」
男は電話をかけ、持ち主に吐いた。
「エンジンがいかれやがった。やわすぎて使えねえな、こいつ」
「ちがう」
電話の向こう、彼女は応えた。
「いたわりもせず走らせ続けた――あなたが殺したんだよ」