0601
2006-06-28
子殺し
「ああ、くそ」
 男はにくにくしげに吐き捨ててペダルを踏み込んだ。
 ヴヴォン。
 かみ合わない音を流すだけで、慣性を失ってゆく車。
「しっかりしろよ」
 なおも荒くアクセルを踏み込んでスピードを出させようとする。
 進まなくとも悲鳴を上げようと、
気にせず男はペダルを蹴りつけた。
 そして小さな破裂音を最後にエンジンは何も反応しなくなる。
「だめだ、こいつ」
 男は電話をかけ、持ち主に吐いた。
「エンジンがいかれやがった。やわすぎて使えねえな、こいつ」
「ちがう」
 電話の向こう、彼女は応えた。
「いたわりもせず走らせ続けた――あなたが殺したんだよ」