派遣社員として向かった会社は、
ドラマでしか見た事がないような場所だった。
広い大きな建物ひとつが一つの会社。
そんなもの現実にはどこにもないと思っていたのに、
あるところにはあるものだ。
きれいな廊下、見渡す限りの仕事場、そして広いトイレ。
直属の上司になる女性に案内されながら、
わたしはこの建物にすっかり心惹かれていた。
「そしてここが社員食堂」
どこかのカフェのような、明るくしゃれたフロア。
「結構安いしおいしいよ。
……まあ、お昼くらい仕事から離れたいのか、
外に出て食べる人も多いみたいだけど」
ごちそうになった食事はたしかに安いのにおいしかった。
こんなのが同じ建物にあるのに、
わざわざ外に行くなんてもったいない。
そこで次の日のおひる。さっそく食堂に入ったわたしを
中年男が取り囲むように並んだ。
「何しに来たんだ?」
にやにやといやらしい笑みを浮かべながら。
「なにしに……って、なんですか?」
ばかにしたような笑いがどっと沸く。
「おいおい、自分がわかってないらしい、この派遣」
「従業員風情がよく言ったもんだな」
意地悪く細められた、目、目、目。
そして、一人が耳にからまるような声で言葉を吐いた。
「ここはうちの『社員』食堂だぞ?」