0600
2006-06-28
優越感
 派遣社員として向かった会社は、
ドラマでしか見た事がないような場所だった。
 広い大きな建物ひとつが一つの会社。
そんなもの現実にはどこにもないと思っていたのに、
あるところにはあるものだ。
 きれいな廊下、見渡す限りの仕事場、そして広いトイレ。
直属の上司になる女性に案内されながら、
わたしはこの建物にすっかり心惹かれていた。

「そしてここが社員食堂」
 どこかのカフェのような、明るくしゃれたフロア。
「結構安いしおいしいよ。
……まあ、お昼くらい仕事から離れたいのか、
外に出て食べる人も多いみたいだけど」
 ごちそうになった食事はたしかに安いのにおいしかった。
こんなのが同じ建物にあるのに、
わざわざ外に行くなんてもったいない。
 そこで次の日のおひる。さっそく食堂に入ったわたしを
中年男が取り囲むように並んだ。
「何しに来たんだ?」
 にやにやといやらしい笑みを浮かべながら。
「なにしに……って、なんですか?」
 ばかにしたような笑いがどっと沸く。
「おいおい、自分がわかってないらしい、この派遣」
「従業員風情がよく言ったもんだな」
 意地悪く細められた、目、目、目。
 そして、一人が耳にからまるような声で言葉を吐いた。
「ここはうちの『社員』食堂だぞ?」