0606
2006-06-29
願い上げ
「ねー、おとうさん」
 夕飯を食べながら新聞を読みテレビを流していると、
中学生の息子が呼びかけた。
「民営化ってなんなの?」
「ん〜? まあ簡単に言えば、政府のお気楽運営じゃ
元が取れずに赤字になる事業基盤を、
金にできるならやってみなと安く民間に売り払って
将来の赤字をなくし、売り払った金で
すこしでも累積赤字を減らそうとすることだな」
「じゃあ、みんな民営化すればいいんじゃないの?」
「ところがそうでもないんだなあ。官の仕事はもうかってる
民間に比べれば低めの賃金で、でもそれをうめる
『社会のために仕事している』という誇りがある。
それが民営化されると、社会のための仕事は
ただ金のための仕事になってしまうんだ」

「それでいいんじゃないの?」
「なに言ってんだ。たとえばレスキューなんか、
実際の出動に対し、どれだけの金にならない訓練があると思う? 
完全に民営化されたら、ほとんど出動がない地域から
撤退するかもしれないし、もしかしたら
レスキュー自体が金にならなくて廃止されるかもしれないぞ」
 真剣な目で黙り込む息子は、しばらくして口を開いた。
「ほかに、なにか民営化できそうなのってないのかな」
「ははは。どんなの知ってるんだ?」
「……先生は?」
「まあ、ダメな先生は首になっていいかもしれないけど、
生徒が入るいい学校にはいい先生が高給で雇われて
お金のある生徒しかいい教育を受けられないことになるぞ」
「じゃあ、市役所」
「必要書類の値段があがるだろうな。
あと、商売のためなら戸籍情報や個人情報を
一通いくらと金とって売るようになるかもしれない。
自分の情報を他人が売買して金にしてるなんて、それでもいい?」
「うーん、じゃあ、政治家」
「国のトップが民営化なんてされた日には、
大企業と手を組んで、そこに有利になるような法律を作って
便宜料をもらったり、自分の金を稼ぐためには
裏金をもらったり税金を不正使用したり、
天下りの会社を作ったり、道徳も何もない大変なことになるぞ」