0625
2006-07-06
自尊他卑システム
 プログラミングの授業で、一人の生徒が期日よりもずっと早く、
アプリケーションを作って持ってきた。
 早速起動すると、『自尊他卑システム』と
タイトルの書かれた窓が開き、いくつかの入力欄と、
その下に長い枠が出た。
「これはどういうもの?」
 わたしの質問に堂々とした笑顔で答える。
「新聞の読者欄に投稿する文の概要を簡単に作るアプリです。
まずは適当に選んでみてください」

 そこで項目の一番上にあるものをそれぞれ選んでいく。
 『職業』−学生、『性別』−男性、『年齢』−十二。
『話題』−は、手入力か。
「あ、そこは例えば先生の興味ある単語でも入れてみてください」
 じゃあ、読書、と。
 入力して生成ボタンをおすと、下に文章が表示された。

  『ぼく』は『読書』をよくするのに、
  『大人』は(ぼくのように)『読書』をしません。
  嘆かわしいことです。

 すると、横から声。
「これを元にすると、『ぼくは学校で毎日
読書するようになってから言葉も増えたし、
いろいろ考えられるようになったのに、
電車にのれば大人が読むのは漫画ばっかりで読書をしません。
これが大人かと思うとがっかりです』
くらいのものになりますね」
「ふーむ……」
 じゃあ、別のにしたらどうだろう。
 主婦、女性、四十二歳。話題は子育て。
 入力してボタンを押した。

  『わたし』は『子育て』をよくするのに
  『最近の若い主婦』は(わたしのように)
  『子育て』をしません。嘆かわしいことです。

「これ、単語の対応を変えただけで、文は一緒じゃないか」
 だがわたしの言葉に清々しい笑顔を返して言った。
「それをわたしに言われても困ります」