近年、墳墓がまれにみる隆盛をほこっている。
しかしそのせいで粗悪なもの、
一万年どころか一年で崩れるようなものも多くあり、
社会問題になっているのは周知の通りだ。
そこで建築基準が設けられ、
その審査を一手に引き受けることになったのがうちの部署。
墳墓で町おこしを、と考える地方自治団体からは
優れたものに対しては補助金を出すことになり、
審査にも厳しさが求められている。
その中でも目を引いたのが、一つの墳墓。
設計図の段階からしてよく考えられた形をしており、
また強度や施工期間にしても無理のない、美しい計画だった。
これは手抜かりがあってはいけないと厳しく審査する。
だが施工状況の写真も、三者機関の審査も
工事が問題なく行われていることを示していた。
そして墳墓が完成したとの報告。
なんの文句もつけようのない、整えられた書類に最後に目を通し、
ひさびさの充実した仕事にため息をついた。
それからすこし後、近くに旅行に行ったときに思い出し、
そこまで足を伸ばしてみた。
「おお〜」
思わずこぼれる声。何度も写真で見てきたあの風景。
美しく盛り上げられた土、その中でしっかりと支える梁たち。
書類で見てきたあのもろもろが、今この目の前に――
――なにひとつとしてなかったのだ。