0632
2006-07-07
卓上空論倶楽部
 近年、墳墓がまれにみる隆盛をほこっている。
 しかしそのせいで粗悪なもの、
一万年どころか一年で崩れるようなものも多くあり、
社会問題になっているのは周知の通りだ。
 そこで建築基準が設けられ、
その審査を一手に引き受けることになったのがうちの部署。
 墳墓で町おこしを、と考える地方自治団体からは
優れたものに対しては補助金を出すことになり、
審査にも厳しさが求められている。
 その中でも目を引いたのが、一つの墳墓。
 設計図の段階からしてよく考えられた形をしており、
また強度や施工期間にしても無理のない、美しい計画だった。
 これは手抜かりがあってはいけないと厳しく審査する。
だが施工状況の写真も、三者機関の審査も
工事が問題なく行われていることを示していた。
 そして墳墓が完成したとの報告。
なんの文句もつけようのない、整えられた書類に最後に目を通し、
ひさびさの充実した仕事にため息をついた。

 それからすこし後、近くに旅行に行ったときに思い出し、
そこまで足を伸ばしてみた。
「おお〜」
 思わずこぼれる声。何度も写真で見てきたあの風景。
美しく盛り上げられた土、その中でしっかりと支える梁たち。
書類で見てきたあのもろもろが、今この目の前に――

 ――なにひとつとしてなかったのだ。