文化人類学者の友人から、どこぞの暑い国の土人が
でかい宝石をかけたレースやるという話を聞いて、飛びついた。
「なあ、そのレースって出られないかな。
未成熟な土人文化ごとき、おれの敵じゃないところを見せてやる」
「まあ、お祭りだから出られないこともないだろうけど……。
言葉もわかんなくてどうするんだ?」
「分け前出すから一緒に行こうぜ!」
そこで友人を押し切り、レースに合わせて
灼熱の荒野に出向いた。
事前に聞いたところによると、ルールはこうだ。
各人一定数のタマゴをもって、遠くにある大石まで行き、
そこに置いてある証拠を持って帰ってくる。
タマゴは途中で食べていいが、帰ってきたときに
最低一個は持っていないと失格だそうだ。
「ほかには?」
友人に訊ねると、友人は周りに訊ね、
「特にない」
と答えた。
くだらない。なんて未成熟な競技だ。
こんなので優勝が今年一番の大宝石だなんてぼろもうけだ。
そして、レースがはじまった。
腰みのをつけただけの男たちがタマゴを持って走る。
不安定なタマゴは荒く走るだけで落ちてしまいそうになる。
そこでおれは一つを綿のつまった箱に大切にしまうと
残りを全部投げ捨てた。
こんなもんいっぱい持ってるから大変なんだ。
食い物は持ってきた栄養食、飲み物は缶で充分。
だが、昼間にそこそこ引き離したものの、奴らは夜の間も走る。
何人かに抜かれたあと、とりあえず罠をしかけて
かかった奴のタマゴをすべて割っておいた。
奴らは意外と侮れない。そこで近道をし、木を倒し、
道をふさぎ。折り返しに入って来た奴から証拠を奪い、
万全の体制で一番にゴールを飾った。
――やった! どうだ、見ろ!
これで大金がおれたちのものだ。
興奮に身震いしていると、周りを男たちが取り囲む。
優勝者を祝う儀式でも始まるのだろう。
「おまえ……とんでもないことやらかしたろ?」
前に出てきた友人が言った。
「いや、別に? やっちゃだめと言われてることは
何一つやってないぞ」
友人が後ろを向き、おれの言葉を伝える。そ
れから土人の言葉を受けると、振り返って言った。
「おまえはなんだ? こどもか?
おまえのために端から端まですべてを言い尽くさなければ、
やっていいことと悪いことの区別もつかないのか?
……と言ってる」
手に手に刀や弓を持ち、近づいてくる男たち。
「そして、神聖な祭りを汚したものには死あるのみだと」
ぞっと凍える背筋。
「ちょ、ちょっと待て。おれは」
日を受けて目を貫くほどの金属の反射。
それがおれが見た最後のものになった。