0637
2006-07-10
長い友
 仕事を終えて家に帰ると、娘が落ち込んだ様子で
ソファに座っていた。
「なんだ、どうかしたのか?」
 するとしんなりした顔を上げて、
「なんかさぁ。友達とけんか……でもないんだけど、
よくわかんないことで仲悪くなっちゃって」
「そっか……」
 ネクタイを緩めながら。
「まあ、人生にはそういうこともあるさ。
こいつとはずっとつきあえると思ったのがいなくなって、
意外な奴が付き合い長くなったりするもんだよ。
取り戻せるものなら取り戻せばいい。
だめならあきらめるしかない。
でも、それはきっと、誰が悪いってことはないんだ。
人は変わっていくものだから」
 すると、すこし笑顔。
「そうだね、ありがと。長い友とあっさり別れちゃった人も
ここにいるんだしね」
 立ち上がって歩いていこうとする頭。
「こら、ちょっと待て」
「あはは〜」
 掴んだ手の下、体のねじりにあふれんばかりの黒髪が
さらりとすべり、娘はあざやかに逃げ去っていった。