大学の冬休み、バイトから帰って部屋にへたり込むと、
突然の訪問者があった。
扉の向こうにはきちんとした身なりの初老の男。
「探しました」
と、男は言った。
扉を開けたおれに弁護士の肩書きがある名詞を差し出し、
「あなたのお父様についてはごぞんじですか?」
「おやじ? おれがこどものころ、
おれと母さんを捨てて出てったってことしか知らないな」
「あなたのお父様は当時から隠れ遺跡の財宝に興味を持ち、
それはそれは熱意をもって読解と発掘にあたりました。
その間、奥さんとお子さんをないがしろにしたこと、
ひどく後悔なさっていたのです」
「……で?」
そんな言葉にいまさら何の意味がある。
おやじに捨てられ、苦労の中で死んだ母さん。
おれだっていまだに安アパートで学費を稼ぎながら
薄めた粥をすするような日々。父親がいないこと、
捨てられたことを憎まなかった日はない。
「このたびそのお父様がお亡くなりになり、
遺産の引継ぎ手を探したところ、
存命しておられる方はあなただけだったのです」
「な……っ? まさか、その金が、おれに?」
「ええ、小国の国家予算にも匹敵する額ですよ」
なんてことだ! おれにもとうとう運が回ってきたのか。
さんざんおれの運命を邪魔し続けてきたおやじが
死んでから役にたつなんて。
とりあえず家に上がってもらおうとしたところ、
男がつぶやくのが聞こえた。
「負の遺産ですけどね」