0674
2006-07-19
無敵少女
 わたしのうらやむ女の子。
明るくて元気で、勉強も結構できて、運動はばっちり。
いつだって場の中心にいた。
 わたしは、といえばその後ろ、陰の中に身を潜めるだけの存在。
 でも人の縁とは不思議なもので、
わたしと彼女はなぜか友達だった。
 そしてあるとき。
「ねえ、どうしよう、どうしよう」
 めずらしく、慌てた声の電話。
「え、なに? どうしたの?」
 わたしは思わず電話を耳に押し付けた。
「えと、ほら、あたしの席のそばに……いるじゃない。男子」
「え? 陸上部の?」
「ううん、反対」
「科学部の?」
「う、うん……」
 揺らぐ声。

「どうしたの? 何かされたの?」
「ちっ、ちがうよ」
 そのまま、何かもごもごと声がする。
「え? なに? 聞こえない」
 すると、
「えと……だから……えっと……。
好き、になっちゃったかもしれない」
 はいぃ?
 すなおな声でこぼしかけた言葉をあやうくのみこんで。
「どうしよう〜」
 はじめてかもしれないとまどいぶり。
なんでもできるのにそういうところには疎かったんだ。
 電話の向こうでおろおろしている様子を思うと、
なんだかすこし、ほっとした。