こどものころ、映画で見た。
敗戦国の女性が勝った国の兵隊にむりやり唇を奪われたのに、
なぜか兵隊が女性を突き飛ばす場面。
うろたえたように口をぬぐう男。女性の口元には血。
べっ、と吐き捨てると、血ではない塊が道路に落ちる。
唇を噛み切ったかと思ったけれど、どうも違う。
でもなんなのかは白と黒ではわからなかった。
――のだけれど。
あれから十何年もたった今、わたしは急にあの正体を把握した。
唇を重ねるわたしを強く抱きしめる彼。
そしてわたしの口の中へ入り込み、
生きた蜂の子のように蠢く彼の舌。
とにかく気持ち悪くて気持ち悪くて。
上の歯と下の歯の間で彼の舌がうねっているのを感じながら、
わたしは映画の女性の行動を強く思い返していた。