「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「そこまで〜!!」
ひび割れたマイクの声が響くと、
広い会場から沸きあがった歓声が空気を振るわせた。
「決まりました。優勝は、3番のかた〜!」
拍手交じりの大歓声。大食いコンテスト会場は沸きに沸いた。
「どうですか、新チャンプ! いまの気分は」
向けられるマイクに、口の中のものを胃に落とし込みながら
男は答える。
「優勝は、練習中に死んだ友達の夢だったんです。
夢半ばに倒れたあいつの志をついでがんばってきました。
これで喜んでくれると思います」
もごもごと声をくぐもらせながら。
「おーい、おまえの替わりに優勝したぞ! 見てるかー!」
男が空に向って叫ぶと、
観客からは魚の大群が跳ねるような拍手の音。
「……見てるさ」
日のあたる男の影、死んだ男の魂があった。
「おれは他に何もできないし、せめて大食いを生かせる
このコンテストで有名になってみたかった。
それだけがおれの夢だったんだよ。
同じ夢を近い人間がかなえるのを見ておれがよろこぶのか?
人を食ったこといいやがって」
ぼうっ消えるように揺らぎながら、彼はつぶやく。
「おれが生きてたら……それこそ死にたくなるよ」