0703
2006-07-28
詭弁師
 夜。自殺未遂の患者が搬送され、
医師たちはその処置に追われた。
 秒を争う緊迫した時間が過ぎ、命をつないだ患者に
医者はその腕をさすりながら悲しい声で話しかける。
「ねえ、どうしてこんなことになっちゃったの……? 
世の中には自分で生きたくても
生きられない人がたくさんいるんだよ」
 すると意識も朦朧として横たわっているはずの男の口から、声。
「世の中には死にたいと思っても自分で死ねない人がいる。
ボケきったら死にたいと思っても、
ボケきってるから自殺もできない。
ベッドに横たわってるだけなら死にたいと思っても、
体が動かせなかったら自殺もできない。
そういう人がいるのに、どうして
自分で死ねる力がある人間が生きてる? 
死にたいのに生き続けさせられる人はたくさんいるのに」