0708
2006-07-29
正体不明
 パソコンの調子が悪くなり、新しい規格も
そろそろ定着しはじめたので、様子見もかねて
大型電気量販店をのぞきに行った。
 一通りあたりを見回し、お店の人に訊ねる。
「あのー、すいません。ここにパソコンってありますか?」
 すると店のロゴの入ったジャンパーを着た男は
「こちらです」
 後ろの棚を示し、訊ねた。
「お探しのものはありますか?」
「いいえ、まだ下見に来ただけです」
「そうですか。では、こちらはいかがですか?」
 男が手でさすものには、『一番売れています』と書かれた紙。
「これは今後新しく適応されます、テレビ放送に対応しています。
モニターも大きくはっきりとして、さらには通常で
映画館にも負けないほどの再現力をもった
スピーカーシステムが付属します。
これは音を立体的に作り出すための新技術を搭載していて、
お客様には大変人気となっております。
またそれは音楽を聴くのにも優れていまして、
他にはない豊かな音が売りとなっています。
もちろんテレビ録画も最新のものに対応していまして、
新式の暗号処理された放送も、画質を落とすことなく、
また処理に時間をかけることなく
長時間録画することができます。
放送時間がずれ込む場合も、回線さえつながっていれば
自動で番組の情報を取得し、指定した番組を
コマーシャルを省きながら確実にとることができます。
なお、音声放送も……」
 話を聞きながら、横にあるさらに高い金額の書かれた札に
目を移すと、
「お目が高い」
 男は言って、説明をはじめた。
「こちらの機種は、先ほどのお隣と比べ〜〜」
 長く、そして流暢な解説が入り、
「〜〜というものですが、いかがでしょうか?」
 満ち足りたように息をこぼしながらわたしを見、
「そうですね」
 わたしはこたえる。
「ここに、パソコンってありますか?」