0716
2006-08-01
ぎすぎすとした味
 ろくに料理もしたことのない小学生の娘が
ケーキを作ってくれるという。
 調子よく手順をすすめているらしい本人とは裏腹に、
不安が漂うぼくたち。妻は心配そうにそばをうろうろとしている。
「ねえ、生クリームってさぁ」
 がりがりとあわたて器を動かしながら、
「何分くらい混ぜればいいんだろうね」
「温度にもよるよ。寒いときのほうがさくっとできるし、
夏場はもうすこし時間かかっちゃう」
 妻が答えると、
「ほんとぉ〜? おかあさん、わかるの?」
 うさんくさそうに言った。
「なんでよぅ。昔はよく作ってたんだよ」
「むかし、ねえ」
「なにその言い方」
 むっとした声。いつも人を気遣う娘らしからぬ言い方に、
「こら、角が立つような物言いはやめなさい」
 たしなめようとして気付いた。
「待て。生クリームのはツノだ、ツノ」