0717
2006-08-01
手品
 よその街から流れてきた ぱっと見さえないそいつは、
手品で何年もつかまっていたのだという。
 そのうわさを聞いたおれたちは
帰り道のそいつに近づき、話しかけた。
「なあ、あんた、聞いたよ。何年も捕まえられるほどの
すごい手品を使えるんだって? なにやったんだ? 
聞かせてくれよ」
 すると悲しい顔で首を振り、
「逆だよ、逆」
 一つため息をついて、そいつは語った。
「おれが小麦粉を運んでたと思いねえ。
それも袋がやぶれたから別のものに入れ替えてたと。
そこにふと役人がやってきて、おれを止めたんだ。
おれがよからぬ薬を運んでいると。
……ばかばかしい、ただの小麦粉だぞ? 
だから言ってやった。好きなだけ調べろと」
 そして二つめのため息。
「だがな、役人が検査の薬を小麦粉にかけたときだよ」