0749
2006-08-10
身の丈
 会社の人に誘われて、おしゃれをしてレストランで食事。
 入ったこともないようなそこは薄暗く、
多分雰囲気があるとかそんな形容をされるような場所だった。
 もっと明るければいいのになあ、
こんなに暗いとなに食べてるかもわからないのにと思いながらも、
運ばれてきたものを口に運ぶ。
 ……と。
「ちょっと、シェフを呼んでくれる?」
 不機嫌そうな声で向かいの彼は言った。
 なんだろう?
 食べながら見ていると、やってきたコックさんに。
「この肉の焼き方はなに? 火が通り過ぎて硬くなりすぎだ。
魚のソースもいつものとは違うし、アスパラの鮮度は確かめた? 
ワインも本当に頼んだもの? どうも味に深みがないし、
年度が違うんじゃないかな」
 そんなことをつらつらと言っていた。
「ごめんね、不愉快にさせて。
普段はちゃんとおいしいものを出すお店なんだけど」
 コックさんが頭を下げて戻っていくと、わたしに言った。
 あなたが何も言わなければ
わたしは気持ちよく食べられたのに。
そんなことも気付かないほどこのお料理に対してかっと来た?
 こんなにおいしいのにおいしく食べられないなんて、
ほんとのおいしさを知ってる人っていうのも、
あんがい不幸せなのかもなあとわたしは思った。