足を、挽いていた。鼻ももげるような寒さの中、
死んだ戦友の足を挽いた。
「次に入るはあいつか俺か。生きてここから出らりゃせん」
だれが歌い出したかわからない歌を聞きかじりに歌いつつ、
土と言うにはあまりに硬い、氷の地面に掘った穴に
昨日まで生きていた人形のような死体を投げ入れる。
――その顔。どこかで見たことはないか?
奇妙に思って顔を近づけると、目がかっと開き叫び出す。
「なんで死んだ。なぜ死んだ! おれは故郷に帰るんだ!」
おれの顔、おれの声の死体が喋る。
「……!!」
目が覚めると、夏の暑さが体の芯までしみこんでいた。
夢の残りの寒さに身震いし、体の暑さに額を拭う。
終戦間際になると決まって見る悪夢。
「おいしく、おいしく、おいしくなーれ」
台所のほうから楽しげな孫娘の声。そしてこうばしい香り。
起き上がり見に行くと、床に座った孫が
上機嫌に何かをくちずさみながらもぞもぞやっている。
「なに歌ってるんだ?」
後ろで目を細める妻に訊ねると、
「挽歌ですって」
軽く笑みをこぼした。
「なにを挽いてるんだ?」
すると孫娘が振り返り、舌足らずな声で応える。
「コーヒー!」