飛行機に乗った。地に足をつけていたら
何十時間もかかる道のりをたった何時間に縮めてしまうという、
常識を逸した不気味な金属の塊だ。
正直こんなものに乗りたくはなかったが、
乗らなくては仕事にならないのでは仕方ない。
「携帯電話のご使用は計器類に悪影響を
与える可能性がありますので、
電源をお切りになり、ご使用はお控えください」
なるほど。携帯電話はだめなのか。
そそくさと電源を切るが、前のほうに座っている男は
不愉快な声で電話先の相手をどなりつけつつ、
大声で仕事らしき話をしつづけた。
「お客様」
そばで声をかける乗務員にもうるさそうに手を振り
追いやろうとするだけ。
「お客様、携帯電話のご使用は計器類に悪影響を……」
ふたたびかけられる声に話口を押さえると、
「黙っててくれ。いま仕事の話をしてるだろうが」
脅しつけるようにそう言って、また電話に向かって話を始める。
「お客様!」
凛とした声を響かせ、その女性は叫んだ。
「死にたくなかったら携帯電話の電源を切りやがれ!」
座席の上で体を跳ねさせる周り。
男の手から落ちた携帯電話を拾うと電源を切り、
彼女はにこやかな笑みで続けた。
「……で、ございます」