0831
2006-09-04
夢に住む人
 久しぶりに昔からの友達に会った。
 持ち寄った甘いものをつまみながら近況を話したり、
それまでのことを話したり。
 勤め始めてから夢も希望もなくしてくすむわたしに対して、
いつまでも変わらない彼に訊ねた。
「ねえ、なんでずっとまっすぐでいられるの? 
もうここまで来ちゃったら、才能だの時間だの、
ないもの尽くしが気にならない?」
 すると苦笑いで、
「まあね。でも正直、生きてくとか金を稼ぐとか
夢をかなえるとか、そんなものはもうどうでもいいんだ」
「どうして?」
 驚いて聞き返すわたしに。
「笑うだろ?」
「あきれるだけにしとく」
 すると軽く笑って話し始めた。
「昔、小学校のころ。好きだったお話の女の子が
夢に出てきたんだ。その子は妖精のような子で、
世界に夢がなくなったら生きられない」
「へえぇ?」
「そしてその日、『お別れだね』ってその子は言った。
でも、それがいつまでか、夢の中のぼくにはわかってた。
『夢がかなう日まで』、ぼくは答えた。
いつか夢がかなったらまた会おう、そういう約束をしたんだ」
「じゃあ、かなえないとだめじゃない」
「でもさ、夢がかなったら、かなった夢はどこへ行く?」
「う……。難しい問題だね」
「で、いつごろからか思うんだ。もし夢がかなわないとしても、
ぼくが夢に向かい続けることでその子を支えられるかもしれない。
夢がかなうのは失敗の多いただの結果で、
大事なのは夢に向かってがんばり続けることじゃないかって」
 そして遠くを見ていた目をわたしに向けると、
「だから、ぼくはこうなんだよ」
 柔らかな目でほほえんだ。
「――女の子よりも、」
「うん?」
 夢がなかったら生きられないのはあなたじゃないの?
 出かかった言葉をことんと落とし、
「ううん」
 軽く首を振りながら、わたしは自分の姿を思った。