失われた肉体の再生に関して第一人者と謳われる女性が、
目隠しをされたままとある部屋に案内された。
「申しわけありませんでした。もう外していただいて結構ですよ」
響く男の声。目隠しを外した彼女は――
「うわ、気持ちわるっ」
思わず叫んであとずさった。
ずらりと並ぶ透明な入れ物、その中にある人の脳。
「これはこの国の歴代の指導者、そして失うのは惜しい者たちだ」
声の主を改めて見ると、現在のこの国の指導者によく似ている。
「金も人員も好きなだけ出そう。
きみの技術で彼らがまた活動できるようにして欲しいのだよ」
彼女は一瞬すごい顔になり、それから深く息を吐くと、言った。
「えーと、その、ですね。ミイラありますよね、ミイラ」
「うん?」
「かつての人は死んだ人がいつかまたよみがえるだろうと思って、
腐りやすい部分をぐちゃぐちゃ掻き出して
壺に流し込んだりしたわけです。腐らないようにと
いろいろ混ぜ物をした結果は……まあ、イカの塩辛です」
「ふむ」
「それで、ですね。脳の部分だけこう微妙に残されて、
防腐剤かなにかにどっぷり漬け込まれて、
いつか使えるだろうと期待されても……。
気持ち悪いだけでもはやどうにも使いようがありません」
「そうか。全部生ごみでしかないのか?」
悲しげに肩を落とす男に彼女は言った。
「まあ、そう悲観することもありません。
いつかきっと、どんなに劣化した肉片のひとかけらからでも
生前のその人を復活させる技術ができますよ!」
干からびた声のはげましに、
「そうだな、未来の可能性は無限だからな」
死ねば自分も頭を開かれて脳を飾られる男も、
乾いた声で応えた。
「あははは、そうですよ」
「はははは、そうだな」
二人でかさかさと笑い合いながら、彼女は帰りに瓶入り果物の
シロップ漬けを買って帰ろうと考えていた。