あたらしい会社に入っての説明で、
わたしに建物を案内しながらその人は言った。
「うちは製造工程を終えての最終検査で
破棄するものはほとんどないんだ」
「へえぇ、どうしてですか?」
「調整がうまくてね。だいたいどんなものでも
使えるようにして出荷してるんだよ」
「……それで、いいんですか?」
胸に湧き上がるものを抑えつつ訊ねると、
「あまり使わないお客さんや、優しく使ってくれる人にあたれば
問題なく使えるかもしれないから、
破棄して損失にはしたくないんだろうね」
「はあ、なるほど」
買ってすぐ壊れたらその会社のものは二度と買わないと
思っても不思議ではない気がする。
それを周りの人にでも言ったなら、
伝染して次の売り上げを落とすことになるかもしれない。
その場しのぎをして、直接の破棄による損失を防げたとしても、
将来にそれより大きな損失の種を植えることになっているのだと
気付かないものなのだろうか?
「なにを考えてるか、わかるよ」
突然言われてぎくりとした。
「いや、いいんだ。きっとおれも同じようなことを考えた」
「あ、はは……」
わたしは薄笑いをし、その人は大きなため息をついて、
「でも、それが上の考えなんだよ」
――そろそろ新しい会社のことも考えなきゃだめかもしれない。
わたしはふと、そんなことを思った。