年老いて寝たきりになった老人がいた。
寝返りをうたせてもらうたびにお礼を言い、
排便の処理をしてもらうたびにお礼を言い、
水をとってもらってはお礼を言い、
とにかくお礼を言うだけの生活に落胆していた。
自分もなにかできないだろうか、
感謝してもらえるようなことはないだろうか?
彼は考え――電話をそばに寄せてもらうと
適当に調べてもらった会社のお客様窓口に電話をかけた。
返ってくる明るい女性の声。
そこで思いついた名を告げれば、電話の向こうの彼女は言う。
「おせわになっております」
……おせわしている!
彼の胸は躍った。
普段世話をされるだけの自分が、世話をしている!
そこで彼は電話を切ると、また電話をかけはじめた。