0879
2006-09-15
貧乏人は死ね
 友人に誘われての旅行で何十年かぶりに飛行機に乗った。
 通路は狭く、荷物を抱えてはすれ違えないほどで、
座席にいたっては前の席とは足を置くのがようやっと。
横に人がいるこの状況ではとてもじゃないが
席を立ってどこかにいくなど無理だった。
 しかもただ座っていてさえ相手のひじと
こちらのひじがぶつかるような席の狭さは、
まるで自分が家畜にでもなった気分にさせる。
「なあ」
 わたしは友人に呼びかけた。
「たとえば、使用しているといくばくかの確率で
使用者を死亡させる可能性のある暖房機は、
お上の通達で回収だの点検だのの命令だのがくだるだろう?」
「ああ」
「なのに、こうして座り続けることで足に血栓ができて、
動いたときに死亡する可能性があることも
ずいぶん知られるようになったのに、
なぜ飛行機の座席はこんなに窮屈で
すこしでも席を立とうものなら乗務員に詰問されて、
用がないなら座席に座り、体を固定していろと言われるような、
不愉快なものであり続けるんだろう?」
 すると友人は読んでいた本から顔を上げ、
つまらなそうに答えた。
「そりゃあ……」