彼を待って、ぼんやりと座る公園のベンチ。
「はい、どうぞ」
目の前に降りてくる紅茶の缶に顔をあげれば彼の笑み。
「あ。ありがと」
「熱いよ」
「うん」
そでを絡ませ受け取ると、彼はわたしの横で缶を開ける。
ちいさく揺れては散っていく湯気。
あたたかさか、中身のせいか、どこかうれしそうに目を細め、
どこかを見ながら軽く一口。
「ふう」
彼の体に移った熱が煙のように太く広がり、散っていく。
――ふと、わたしを映すその瞳。
「どうかした?」
優しい目線でほほえみながら。
「ん。最近……ちょっと苦しくて」
「喘息?」
「ううん」
肌に触れなくても伝わってくるそのあたたかさ。
「わたし、あなたが、好き」
驚きが照れに変わって半笑い。
「ぼくだって」
ああ、ほんとに? あなたもこんな気持ちなの?
「あなたのその目が好き。焦げ茶の瞳が好き。
細めた目も、真剣な目も、困った眉も驚いた眉も好き。
はにかむ口が好き。笑った顔も好き。癖のある髪も好き。
髪が揺れるのが好き。困ったときに小さくかくそのしぐさが好き。
深い声が好き。わたしを呼んでくれる響きが好き。
その肩も、腕も、指も爪も。みんなみんなあなたで好き。
……どうしよう。一緒にいるだけで、好きで、苦しい」
わたしを見つめる驚いた瞳。顔をそらすと、
「まいったな。そんな……」
ひとこと、言った。
それから、彼は。いつもみたいに笑ってくれなくなった。
ぎこちない顔で、なにか違うものでも見るような目。
――あきれてる。こんなわたしをうっとうしい奴だって
思ったのかもしれない。嫌われた。
あんなこと言わなければよかった。
どうしよう。どうしたらいいの?
」
……という友達の話を、わたしは延々と電話で
聞かされ続けているわけだけど。
「ねえ、どうしたらいい? もうだめなのかな」
すがるような、泣きそうな声の本人とはうらはらに、
背中がむずがゆくなるような
いたたまれなさがわたしを支配していく。
「あのさ」
漏れだすため息に、魂までが出て行かないように気をつけて。
「とりあえず、電話切っていい?」