0881
2006-09-16
素直になれなくて
「どうしたの?」
 わたしを見てにこにこと笑う彼。
 とても、嫌な人だ。
「なに?」
 その毒のないすなおな笑顔が憎いくらい……好き。
 彼の視線で命がともる。彼の言葉でわたしは動く。
 こんなにもわたしが好きなことを、この人はきっと、知らない。
彼が好きだと言ったから、
わたしが付き合ってあげてるんだと思ってる。
「あ、あの、さ」
 詰まりそうになるのど。
 どうしてこんなわたしを好きだと言うのかわからない。
 けど。
「わたし、あなたが、好きだよ」
 精一杯の横目で見ると、うれしそうに目を細めて。
「ありがと。ぼくもだよ」
 かあっと熱を持つ頭はからっぽになって、
知らない場所から言葉が落ちた。
「こ、この、ナルシスト!」