0887
2006-09-19
ただより高い物
 まだ独身のともだちとひさしぶりに会っておしゃべり。
「あ、そうそう」
 そのうちふと思い出して、わたしは言った。
「うちのところの共同のごみ捨て場、
心無い人たちが捨てかた汚くていつもいやだったんだけどね、
この前見たら若い奥さんが黙々と片付けてて」
「うん」
「そこで捨てるのもなんだか悪くてしばらくしてから行ったら、
ずいぶんきれいになってて気持ちよく捨てられたんだ」
「へえ〜」
「あれを見たら、見習わなきゃいけないなあって思ったよ」
 すると、なぜか曇る友達の顔。
「で、見習ったの?」
 ぎくりとするわたしに、
「見習おうって気はほんとにあるの?」
 さらに追い討ち。
「それまでならちょっといい話だったのに、
それを見習う気がないのに『見習おうと思った』って言うのは
どういう意味? 『すてきな人を見習おうと思える、
心のきれいなわたし』でも演出したいの? 
……未来に投げっぱなしにするくらいなら、
『わたしも見習った』って過去で話してくれれば
尊敬もできるのに」
 あきれたような冷たいような視線にうちのめされていると、
慈愛に満ちた視線で彼女は言った。
「まあ、気にしないで。思うだけはただだもんね」