はじめてうちの軒先にツバメが巣を作ってからというもの、
娘はかいがいしくその世話をするようになった。……らしい。
すくなくとも本人の中では。
見守り続けてどれくらいたった頃か、
子ツバメたちが巣のふちで羽をばたつかせはじめる。
「もうそろそろ、すだちの時期かもね」
わたしが言うと、
「ええ? まだ秋じゃないのに?」
驚いた顔が見上げた。
「あはは。そんなに長くいたらツバメも育ちすぎちゃうよ」
「え〜、どうしよう……」
困ったような顔をする娘。
「だいじょうぶ。さっぱりと見送ってあげよう?」
小さな頭をぐしぐし撫でて、小さな命を見つめる。
それから何日かすると、巣のそばに茶色いなにかの乗った
踏み台が置いてあるのに気がついた。
……なんだろう?
手を伸ばすと、
「だめー! ツバメが食べるんだから」
どこかから娘の声。
「え? たべもの?」
顔を近づけると、しわしわで茶ばんではいるけれど、
ミカンみたいなものらしい。
「なにこれ?」
訊ねると、
「すだち」
残念そうな声で。
「……こんなのしか見つからなかった」