0888
2006-09-19
離乳食
 はじめてうちの軒先にツバメが巣を作ってからというもの、
娘はかいがいしくその世話をするようになった。……らしい。
すくなくとも本人の中では。
 見守り続けてどれくらいたった頃か、
子ツバメたちが巣のふちで羽をばたつかせはじめる。
「もうそろそろ、すだちの時期かもね」
 わたしが言うと、
「ええ? まだ秋じゃないのに?」
 驚いた顔が見上げた。
「あはは。そんなに長くいたらツバメも育ちすぎちゃうよ」
「え〜、どうしよう……」
 困ったような顔をする娘。
「だいじょうぶ。さっぱりと見送ってあげよう?」
 小さな頭をぐしぐし撫でて、小さな命を見つめる。

 それから何日かすると、巣のそばに茶色いなにかの乗った
踏み台が置いてあるのに気がついた。
 ……なんだろう?
 手を伸ばすと、
「だめー! ツバメが食べるんだから」
 どこかから娘の声。
「え? たべもの?」
 顔を近づけると、しわしわで茶ばんではいるけれど、
ミカンみたいなものらしい。
「なにこれ?」
 訊ねると、
「すだち」
 残念そうな声で。
「……こんなのしか見つからなかった」