0904
2006-09-24
くだくだ
 一つのでかい仕事が終わり、会社からいくらか
ねぎらいの金も出すというので部下たちをつれて飲み屋に行った。
「いらっしゃいませー!」
 元気の良い声。
「まずはご記帳いただけますか?」
 やってきた店員は言った。
「こんなにがらがらなのに?」
 思わず訊くと、
「いえ。順番待ちではなく、
安心して楽しんでいただくためのものとなっておりますので、
みなさまのご記入をお願いいたします」
「ふむ……」
 宿帳のようなものを開いてみると、
各頁の上に書かれている文章。

 『この店でお酒を飲んだあと、二十四時間は
車を運転しないことを誓います。もし誓約を破り運転し、
事故を起こしたとしてもこの店には
なんの責任がないものとします。
以上に納得した証として、以下に自分の名前を書き記します』

 仰々しいが、昨今の時代の流れからすると
しかたないのかもしれないな。
 そこでみんなで記入し、宴がはじまった。
 飲み・食い・騒ぎ、そして勘定してもらうと、
釣りと一緒に受領書を渡される。
 普通の紙の大きさのそれには、
入るときに記入した文字のコピーがあり、
さらに新しい文章が加わっていた。

 『以上の方たちはこの店で酒を飲む際、
たとえのちに車を運転しようと思っていても、
誰にもわからぬように隠しながら
二十四時間は車を運転しないと誓いました。
それは本人以外知りえないことですので、
確かめてから酒を出したこの店や店の従業員には
一切責任がありません』

「おいおい、ずいぶんくだくだしいな」
 おれが言うと、
「ええ。くだを巻いたり巻かれたり。
酒にくどさはつきものですから」