0905
2006-09-24
ハイブリッド
「はははは!」
 どっ、と会議室がわいた。
「なんだ、この製品番号、『なめこ-000001』ってのは」
 わたしをさげすむ目、目、目。
 指をにぎりこみ、足を伸ばしてわたしは応えた。
「それはたとえです。本題は上に書いてあります」
「自社の製造ラインで使う製造番号と、
発注をかけるときの製品番号、客から注文の入る注文番号を
同じにしてほしい、というのはわかる。
でも『なめこ』はないだろう、なめこは。
単語と数字のハイブリッドきどりか?」
 なにがそんなにおもしろいのか、また噴き出すと
ばかにしたように笑い出した。
「別に『サーモスタット-000001』でも構いません」
 わたしの言葉に、別の声。
「サーモスタットなら、今までどおり『ts-9d』から
はじまる型番があるだろう。君のと違って
意味のあるアルファベットと数字のハイブリッドだ。
思いつきだけで変えられちゃたまらないよ」
「なめことかな」
 横から入る茶々にまた周りがわき、怒りの限界を超えた
わたしはひらひらの頭をわしづかみにして叫んだ。
「少々席をはずしてまいりますので、しばらくお待ちください」

 後ろで上がる声は無視し、わたしの部署まで引きずっていくと
適当な席に投げ置いた。
「なにをするんだ」
「注文とってもらいます」
 目の前の電話を回線開放にしてやれば、注文電話がすぐに鳴る。
「さあ、どうぞ」
 聞くべきことの紙を置き、ヘッドセットを押し付けて。
 挨拶くらいお偉いならできる。問題はその次だ。
「え? GB?」
 薄い髪の下からさっそく困り声。
「あ、すいません。DB? え? ティー? ディー?」
 おでこに脂汗がにじみはじめ、袖口でぬぐったりしている。
「物はなんです? サーミスタ……え、わかりませんか。
えーと、型番は、ティー、ジーですよね?
 え? ピー? シー? 
いや、ええと、そういうわけではないんですがね、その」
 すこしの沈黙、わたしを見る顔。
電話がまた鳴り出したところを見ると、
通じない話に怒って切られたのだろう。
「さ、電話がまた鳴ってますよ? とってください」
 不安そうな目が揺らいで、
「勘弁してくれよ」
「……『勘弁してくれ』?」
 わたしはぎりりと唇を噛む。
「その言葉を、ここにいる全員の前で言ってみてください。
あなたたちが勝手につけた番号のせいで
わたしたちが毎回どれほど苦労しているか。
この全員が全員、勘弁して欲しいと願っているのを、
あなたたちは笑い飛ばしたんですよ!」
 力任せに机を叩きつけ、しびれる手を電話に伸ばす。
「さあ、次行ってみましょう。これがあなたたちの、
結果と責任のハイブリッドなんですから」